2011年8月17日水曜日

僕のガンに対する向き合い方

自分自身が「ガン」をどう考えているか。それを、ここに書き記しておきたいと思います。

残念なことに、今や日本人の2人に1人はガンになり、3人に1人はガンで亡くなります。ご家族にガン患者がいるという方も、少なからずいらっしゃるかと思います。この文章が、そんな方の一助になれば幸いです。

昨今「ガンは今や治る病気だ」というのを、よく耳にしますが、これは大きな間違いだと言わざるを得ません。人間がガンについて知っていることは、ごくごく僅かだということが、最近の研究で分かってきたからです。

私たちの細胞は日々、新陳代謝を繰り返し行い、数年たてば、全身の細胞が入れ替わってしまいます。細胞は通常まったく同じようにコピーされ、遺伝子情報は引き継がれていきます。

しかし、一日に何万もの遺伝子コピーを行うので、中にはコピーミスをしてしまう細胞が出てきます。このコピーミスは、健康な人の細胞でも毎日起こっていますが、免疫が異常な細胞を排除して問題が起きないように対応しているのです。

ところが何らかの原因で、このコピーミスを見逃してしまうと、さらにそのミスをした異常な細胞のコピーが生まれ、どんどん本来の遺伝子からかけ離れた組織が増殖してしまう、それこそがガン細胞です。
なぜ胃ガンや大腸ガンの患者が多いのかというと、それらの臓器は、粘膜などの新陳代謝が活発で、遺伝子をコピーする回数が多いため、ガンが生み出される確率が高いのです。

ガンはウイルスや、菌によって発症率が高くなるものもありますが、基本的には自分自身が生み出すものなんです。自分の細胞とガン細胞は極めて近いため、ガンだけを攻撃する薬を作りだすのは、非常に難しいのです。

このメカニズム自体は、既に解明されていました。しかし、近年の「がんゲノム解析」により、その異常な遺伝子のバリエーションの多さ、そして異常な遺伝子どうしの結びつきの多さが、人間の想像をはるかに越えていたということが分かってきたのです。

ガン細胞の遺伝子を解析する「がんゲノム解析プロジェクト」は、ヒトゲノム解析よりも、何倍も時間がかかると言われています。前述した通り、ガンのパターンは人によってあまりにも違い、多すぎるからです。この解析が終わって、ようやくガンを根治するための、ロードマップが描けるのです。

世界の優秀な頭脳が集まって、世界最速レベルのスーパーコンピューターを使って、必死にガン遺伝子の解析は進められていますが、実際はまだ全然分かっていない。今後50年、100年で分かるんじゃないかという、そういうレベルだそうです。

現在のガン治療というのは、地図もなければコンパスもない、ただ闇雲にガンに効きそうなものを、トライ&エラーで見つけ出しているのに過ぎません。全身に影響を及ぼすような毒(実際に毒ガスから抗ガン剤の歴史は始まってます)で対応するしか、現在はうつ手だてがないのです。

ガンの話で、必ず出てくるのが代替医療ですが、繰り返しになりますが、ガンというのは人によって全然性質が違うので、ある人に効いた方法が、万人にあてはまるのかというと、極めて疑問が残ります。とくに「これさえ飲めば治る」というのは、誇大広告以外の何者でもないと思っています。

大腸ガンの抗ガン剤だけでも、いくつもの薬があり、その組み合わせで無数の治療パターンがあり、それが効くかどうかを細かく診ていくのです。それが、ただ何か一つの物質や食べ物を摂取しただけで、どんな患者のどんな臓器のガンも治るというのは、あまり現実的ではないと感じてしまいます。

実際に米国のメリーランド州、フォート・デリックにある、アメリカ国立がん研究所ナチュラル・プロダクト・レポジトリーでは、自然物質の中から抗ガン作用のある物はないかと、しらみ潰しに調べています。キノコから、深海の貝殻から、あらゆる物のエキスを抽出し、実際にガン細胞に注入し、数十万の有機物を調べあげてきた結果、今のところガンに効くものは一つもありませんでした。

だからといって、代替医療、民間療法、東洋医学など全てがダメだと否定しているわけでは、ありません。私にとってこれは効くのだと確信して、その治療に期待すればプラシーボ効果もあるだろうし、ラッキーならばその治療が効くタイプのガン患者かもしれません。

ただ、僕は代替医療というものは、一点張りで命を賭けてまでやるには、ちょっとリスクが高すぎると思っています。ある人にとっては、真実であっても、それが自分にとっての真実かどうかは、フタを開けてみないと分からないからです。

ガンの本質というものが分かっていない以上、対抗する手段には限りがあります。現在の進行ガン(再発や転移があるような進んだ状態のガン)の治療は、まるで敵の大軍に攻められて、城に籠城するようなものです。抗ガン剤は最初のうちこそ効きますが、ガン細胞は耐性をつけて、再び攻撃をしてきます。
石垣を登り、門を破り、塀を越えて、どんどん攻め込んでくる。

抗ガン剤を変更し、それもまた効かなくなる。繰り返すうちに、最後は万策尽きてしまいます。まるで、二の丸、三の丸と突破され、最後は本丸に大軍が押し寄せてくるように。
なんとか敵を押しとどめる。時間を稼ぐ。ツキがあれば、寛解という、ガンが進行しない状態になるかもしれない。「一時休戦」を目指す。それが進行ガンに対する、今の医療の限界なのです。

以上が僕のガンに対する認識であり、細かい部分では間違った知識を持っているかもしれませんが、だいたいの部分では極めて現実的な認識をしているのではないかと思っています。

これではまるで希望がない。

そう思われた方もいるかもしれません。現在の治療の限界を知り、無邪気に代替医療に期待を寄せることも出来ない。そんな患者は、不幸なのでしょうか?

僕はそうは思いません。「ストックデールの逆説」という言葉があります。ストックデールは「ハノイ・ヒルトン」と呼ばれたベトナムの捕虜収容施設で7年半もの間、過酷な拷問を受けながらも、不屈の精神で耐え抜き、最後には米国に帰国したベトナム戦争の英雄です。

彼は後年インタビューでこう答えています。「これはきわめて重要な教訓だ。最後にはかならず勝つという確信、これを失ってはいけない。だがこの確信と、それがどんなものであれ、自分がおかれている現実の中でもっとも厳しい事実を直視する規律とを混同してはいけない」(ビジョナリー・カンパニー2より抜粋)

楽観主義者は、「この施設から、もうすぐ出られるはず」という淡い期待を持ち続け、最後には失望の中で死んでいったそうです。

私が持っている勝利の確信とは何か?それは、残りの人生において勝利し続けるという確信です。
僕にとっての勝利とは、一瞬一瞬を100%で生きること。過去を後悔しながら生きるのも、未来を案じ悩みながら生きるのもやめて、今この瞬間を精一杯に、幸せに生きることです。

たとえガンをわずらっていても、幸せでありつづけること。"Unconditonal Happiness"(無条件に幸せであること)こそが人生に勝利する唯一の方法だと思います。

財産を築くことや、名声を得ることを人生の勝利だと思うならば、その人は不幸です。なぜなら、死んだ瞬間それらは全て意味を失い、最後は必ず敗北する運命にあるからです。

3 件のコメント:

  1. メッセージ非常に感動しました。

    QOLって病気の時だけじゃなくて、そうでなくてもずっと考えることだし、幸せについても、どういう環境であっても、スタンスは一緒ですね。

    父と一緒に闘病し渡辺さんがここに書いていらっしゃる、ストックデールの話しの中の「楽観主義者」のように頑なに信じることで、随分と父を追い詰めてしまったなぁと思います。

    どんな環境であっても、今のこの瞬間を精一杯幸せに生ききる、人間にとって一番大事な心持ちだと思います。

    渡辺さんが発信されているメッセージは息子さんだけじゃなくて、きっと多くの人の心に届いていると思います。

    少なくとも私はその1人です。

    返信削除
  2. Keikoさん

    素敵なコメントありがとうございます。

    Keikoさんの気持ちはよく分かります。

    やはり一緒に闘病する家族や周りの人々は「何とか治ってほしい」という「こうすれば治るんじゃないか」と、そういう思いが強く、それは大切に思っているからこそだと思います。お父さんは、幸せだと思いますよ。

    僕自身は、病気になったからこそ、いろんな事に気がつけたと思うし、この一瞬の幸せを感じられるようになったと思います。こんなにも温かく、慈愛に満ちた人々に囲まれていたのかと、ようやく気がついたからです。

    逆に、病気になっていなければ、傲慢で思い上がった人間のまま、いつまでも幸せになれずに一生を終えたかもしれないです(笑)

    返信削除
  3. ありがとうございます。
    すごいなぁ、、、渡辺さん。
    肉体的にしんどい時になかなか言えることじゃないですよ。すごいと思います。

    返信削除